藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
阿佐ヶ谷住宅
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「明日の住宅」がまだ残っていました──。
公団阿佐ヶ谷住宅を見てきました。1958年(昭和33年)に建てられたもので、総350戸のうちテラスハウスが232戸、その中の174戸を前川國男が設計しています。全体計画を手がけたのは日本住宅公団です。前川國男の「阿佐ヶ谷テラスハウス」だけが傑出しているのでなく、公団と前川のコラボレーションが見事。よくぞこんなものがまだ東京に残っていると感激しました。
いわゆる「近代建築」ないしは「新建築」の問題は、実に「人間の建築」にあり、「住居の建築」にあったと言ってよいと思う。
「緑の都市へ」1947年──『建築前夜 前川國男文集』 而立書房 1996年刊より。
美術館とか市庁舎とかモニュメンタルな建築だけを残すのでなく、近代デモクラシーとヒューマニズムの理想を実現するため、未来に向かって提言した「明日の住宅」こそ、モダニズムの遺産、昭和を語り継ぐものとして残してほしいものです。

「太陽、緑、空間」と謳った、前川の師匠ル・コルビュジエの都市計画の理想が、豊かな緑とゆったりした敷地の中で今も輝きを放ち続けています。家を塀で囲わず、公と私の境界が不明瞭で、どこまで他人が足を踏み入れていいのか分かりません。路地や井戸端といった昔ながらの共有地を近代建築の方法で計画的に再現しているとも言えます。
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共有スペースで建物を囲むというのは、高層集合住宅や商業施設や公共施設ならよくあります。しかし、防犯などの理由から、戸建ての住宅や低層の集合住宅の塀を取り払って、庭を開放的な共有スペースにすることは難しくなっています。それでも道路を共有スペースにする発想ならまだしばしば見かけますが、ここでは庭か公園か見分けの付かない場所がある。一見米軍住宅に似ていますが、あちらは住宅地自体が有刺鉄線付きフェンスで囲まれている。こうした開放的な敷地の計画は、まさしく戦後の、まだ純度の高かった頃の民主主義を標榜した人たちならでは発想だと思います。

敷地を歩きながら、数年前訪れたベルリン・ハンザ地区の集合住宅インターバウ(Interbau/1957年)を思い出しました。ちょうど同じ時期の設計です。インターバウはグロピウスやニーマイヤー、アアルトなどが参加する国際建築展として企画された住宅開発計画です。

インターバウは森と一体化したような住宅地でした。実はすっかり忘れかけていたのですが、阿佐ヶ谷住宅を見て回っていて、アルネ・ヤコブセンが手がけた住宅が並ぶあたりを歩いていた時の感覚が蘇りました。ヤコブセンの住宅は平屋の四角いアルミの家、植物に埋もれていて、えらくフォトジェニックじゃない。取材する人間にとっては大変困った建築でした。が、しかし、その一群の家々の周囲を歩いていると、住宅も街路も人間の等身大のスケール感にあわせて設計されているのが、よく分かる。やや軒の低く緑に埋もれているような住宅、家と家との間隔は近すぎず遠すぎず、道はうねり歩を進めるたびに風景が変わる。低層ヤコブセンの住宅が、アアルトやグロピウスの中高層の集合住宅とうまい具合コントラストをなしている──。そのベルリンの感覚を思い出したのです。

再開発の話があるそうです。老朽化が進んでいます。無人の家もいくつかありました。日本政府の土地に対する政策から考えれば、無くなるのは必至でしょう。私たちの社会の根幹である民主主義の理想を“かたち”にした近代人の夢の跡なのですから、重要文化財くらいにしてもいいと思います。なんか縄文人や弥生人とかの住居跡だけ、優遇されすぎじゃありませんか? 

時間を忘れて夢中にシャッターを切りました。これほど撮影が楽しかったのは久々!
場所は丸ノ内線 南阿佐ヶ谷駅から、青梅街道を背にして南へ徒歩5分くらい。地下鉄の構内の地図に公団阿佐ヶ谷住宅としてちゃんと載っています。
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中層の集合住宅は前川の設計ではない(はず)

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道のうねり具合がいい。家と家をつなぐ細い路地も所々うねってます

★おまけ/Google Mapsの衛星写真で見た阿佐ヶ谷住宅。「マップ」をクリックすれば地図も。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2005-06-14 19:10 | コモン
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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