藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
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三澤遥展とムナーリ展、役に立たない動きの詩学

三澤遥さんの個展(於:ギンザ グラフィック ギャラリー)に行きました。Twitterで動く紙「動紙」の動画を見ていたのですが、やはり空間を感じながら動きを見ると違いますね。評判どおりの良い展覧会でした。その後銀座を離れて私は世田谷美術館にブルーノ・ムナーリ展を見に行ったのですが(これも必見)、動く4次元のコンポジションという意味で二人がつながっているように思えました。

三澤さんの動紙は「機能する紙」などという紹介もありますが、ちょっと的外れです。動紙はその動かす機構を含めてムナーリ同様「役に立たない機械」であって、この紙をどうやったら機能するか役に立つかなんて考えると、展示全体に通底していたコンポジションの詩学を読みとれなくなります。

ムナーリの「役に立たない機械」はカルダーが動く彫刻として生みだしたモビールと同時期に生みだされたもので、その機構はモビールのそれとほぼ同じものです。機構はほぼ同じでも彫刻を動かしたカルダーと、機械を役に立たないものにしたムナーリでは、その意味生成の文脈がちがいます。ムナーリの機械は、機械といっても、われわれがイメージする機械とは違い、構成要素どうしがつながりあいながら環境とインタラクションしているという機構をつくったという意味です。そしてその機構を空間に晒して、環境と対話しながらその機構の構成要素が刻々と変化する様にムナーリは、コンポジションの詩学を見いだしました。

三澤さんは動きの機構を見せません。魔法のように動きを見せます。しかし確かに紙が動く舞台の下に仕掛けがあるのがわかります。自然現象のように見えて、でもそれは人為的で手品の種があるのをみんな了解した上で、その生きもののような動きをする現象をみて、そこに詩を感じるのです。散華「まわり花」など、イチョウの種がクルクルと宙に舞うように空を駆ける紙のオブジェがありました。その形態自体が動きを生みだす機構です。しかしその機構を形からは、空気とインタラクションして、どういう動きが生まれるかは素人にはパッと見まったくわかりません。現象と機構が見た目でつながっていないからこそ、優雅な舞がより心に焼き付くのです。

コンピュータや通信技術はもはや部品に解体してもその仕組みを可視化したり想像することはできません。ムナーリのそれが現象イコール仕組みだった時代の役に立たない機械だとしたら、三澤さんのそれは現象と仕組みが乖離しはじめた時代の役に立たない機械といえるでしょう。


ムナーリは、木の枝分かれから無限に木を描ける絵の仕組みを見いだしたように、自然のかたち(現象)から普遍的造形原理を抽出します。ムナーリは造形原理や方法論を探求し、その原理や方法論をもとに自らの手で多様な表現を創造して人々の創造性を喚起しようとしました。動きは造形原理と直結していたのです。

三澤さんは、自然の原理が反転して見える擬似的な自然現象を作り出します。動紙も観賞魚がドームの内外を泳ぐ水槽の作品も、なにやら仕組みが背後にありそうなというところで仕組みの可視化が寸止めされていて、現象そのものに詩学が現れるように設定されています。

「動き=機構変化」でなくなったときに、動きをどこにどう置くのか。そこに動きの布置の詩学が現れます。布置とはレイアウトのことです。21世紀、動く絵も動く立体もありふれたものになった時代に、一本の線に「詩」があるように、ひとつの動きにも「詩」があることを三澤さんの仕事は再認識させてくれます。優れたグラフィックデザイナーが布置の力で一本の線のもつ詩を浮かび上がらせるように、動きが空間コンポジションの一部となって、そこに詩が立ち現れる──。新しい時代のグラフィックデザイナーの仕事をこの展覧会で見たように思いました。

あっお間違いないように──。役に立たない動きの詩学は、人びとの想像力を広げて創造性を喚起するって意味では機能するんですよ。ムナーリの業績はその証明です。機能と詩の波打ち際を探究したデザインって時代を超えて輝くんです。


展覧会情報→「続々 三澤遥」展  2019年1/26まで(日曜休)


text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2019-01-20 14:34


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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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